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「第9回「行きたくなる病院をつくる」(2014年10月21日放送分)」
<出演>
マスター:明石 秀親(国立国際医療研究センター)
ヨーコ:香月 よう子(フリーアナウンサー)
岡林:岡林 広哲(国立国際医療研究センター/小児科医)
■ オープニング
ヨーコ:お元気ですか? グローバルヘルス・カフェ、香月よう子です。
国際医療協力にかかわる人たちが通うグローバルヘルス・カフェ、ここのマスターはとっても面白いので私、気に入って通っているんです。
■ 病院の対応がよくなった
ヨーコ:ねえねえマスター、このあいだ身内が病気になってしまったので、病院に行ってお医者さんから説明を受けたの。最近、日本の病院って患者さんとか家族への対応が昔より親切だよね。
マスター:そうね。でも、それは日本だけではなくて、途上国でも同じなんだな。
ヨーコ:そうなんだ。
マスター:そうそう。あ、あそこにいる彼、ラオスで長いこと病院でサービス改善のために活動をしてきたんだけど、彼は小児科医の岡林さんていうんだ。紹介するよ。
岡林:サバイディー! サバイディーボー!
ヨーコ:え、ラオスの人ですか?
岡林:いえ、日本人です。「サバイディー」というのは、日本語で「こんにちは」という意味になりますね。
ヨーコ:そうなんですか。
■ 健康への関心が低いラオス
ヨーコ:ラオスは、タイやベトナムの近くにある国ですよね? これらの国に比べてラオスはちょっとなじみのない国かもしれませんね。
私たち日本人は、いま、健康に対する意識がすごい高いと言われているじゃないですか。ラオスはどんな感じなんですか?
岡林:都会の人たちだったら病院に行こうとか、もちろん思うんでしょうけれども、田舎の人たちとかっていうのはなかなかそういって常に病院に行くという意識がないんです。
たとえば、さっきの妊娠の話になりますけれども、お産だって病院に行こうとは思わないですし、病院に行くというだけじゃなくて、家で産むと思うじゃないですか、実際に家じゃないんですよ。
ヨーコ:え、家、自宅分娩がラオスでは多いとかよくいわれますけれども、家ではないんですか?
岡林:そうなんですよ。家で産むのはいけないという文化を持っている少数民族とかもあって、そういう人たちというのは、家じゃなくて、家の外とか、裏庭とかでお産を一人でするんです。
ヨーコ:自分の家の範囲内というか、お庭とか、そういった感じの所で。
岡林:軒下だったりですとか。
ヨーコ:それはちょっと同じ女性としてとても驚いてしまいます。
■ 病院に行くと嫌な思いをする?
ヨーコ:どうして病院というところに行くという意識がないんでしょうかね。
岡林:どうしてもふだん病院に行き慣れていなかったり、田舎の人だったりとかするので、どうしても行ったときに病院の人たちからぞんざいに扱われてしまうというか、格好が汚かったりとか、あるいは少数民族の人ですと言葉が通じないということで、病院の人から本当にていねいに扱ってもらえないということもあるし、
ひどい場合ですと、ようやく山ひとつ越えて2日、3日かけて病院にたどり着いても病院に人が誰もいない、せっかく来たのに何にもしてもらえないということもあるんですよ。
ヨーコ:なるほどね。その病院に来てもらえるようにするために、岡林さんは活動していたわけですね。
岡林:そうですね。なかなかそういって自分の健康をよくしようと思ってくれないような人たちが、せっかく病院に来たのにそこに来て嫌な思いをして帰ってしまう、あんなところ行かなくていいやと思ってしまうのはとても悲しいので、やっぱりもっと病院自体がよくなって、患者さんたちが行きたいなと思える病院にしていけたらいいなと思って活動してきました。
ヨーコ:それは技術をよくするとか、何か最新の器械を入れるとか、そういうことですか?
岡林:もちろんそういったことも必要なんですけれども、さっきお話したように、お医者さんですとか看護師さんたちに冷たくされたりとか、あるいは行っても誰もいない、本当に医療技術以前のところの問題も多いので、医療技術を伝えるということも1つの方法なんですけれども、
それだけじゃなくてやはり患者さんが行きたくなると思うような、医療スタッフがやさしい、いい病院にしたいと思って活動してきました。
■ ラオスの病院には勤務表がない!?
ヨーコ:具体的には、どんなことをされたんでしょうか?
岡林:まず、日本では考えられないんですけれども、病院の開いている時間に行って人が誰もいないということがラオスの病院ではよくあったんですよ。
ヨーコ:すごいですね、それ。
岡林:たとえばお昼休みになったら、みんな家にお昼を食べに行ってしまって誰も残っていないとか、あるいは夕方とかも誰が夜の当番だというのがはっきりしていないので、みんなで帰っちゃって誰も残っていないとか。そういったことがありました。
ヨーコ:それをどういうふうに改善していったのでしょうか?
岡林:簡単なことなんですけれども、勤務表を作るところから始めました。
ヨーコ:勤務表を作ると、やはりそれは変わっていくものがある?
岡林:そうですね、ラオスの人たちというのは基本的に日本人と一緒でまじめなので自分がいつ当番でいつ働かなくちゃいけないのかというのがきちんとしていればちゃんと働くんですよね。
ヨーコ:最初は岡林さんが作ったんですか?
岡林:いえいえ、それはもう、病院の人の、スタッフの人たちがどうしたらいいんだろうと考えて、そうだ誰がいつ働けばいいのかというのを決めておけばいいんだという話になって作り始めました。■ 白衣が買えないので......
ヨーコ:なるほどね。ほかにはどんなことをなさったのでしょうか?
岡林:たとえば病院に行ったときに、病院の人たちも患者さんと同じ普段着しか着ていないんですよね。そうすると、患者さんが来ても、一体誰がスタッフかわからなくて、誰に声をかけていいとかわからないということがよくありました。なので病院に行ったときに誰がスタッフだかわかるようにしましょうというようなアイデアも出てきましたね。
ヨーコ:それはどんなふうに?
岡林:それは日本と一緒ですね。白衣を着ればいいんじゃないかという話にはなりました。
ヨーコ:なるほど、白衣ってそういうためにもあるんですね。
岡林:そうですね。ただね、そんなに簡単な話じゃないんですよ。ラオスの病院って、お医者さんとか看護師さんが着る白衣を買うお金がない病院もあるんですね。
ヨーコ:白衣がないとなったらどうしたらいいんだろう。縫うとか?
岡林:いえいえ、そのときに現地のお医者さんから出てきたアイデアは、白衣は買えないけれど、名札を作ろうというアイデアが出てきました。
ヨーコ:名札を作る。それなら紙があればできますよね。
岡林:そうですね。
ヨーコ:そして、どうなったんでしょうか?
岡林:名札を付けるようにして、白衣は着れませんけれども、それで誰がスタッフかわかるようになったということでしたね。
ヨーコ:なるほど、こういった何と言うんでしょう、1つ1つの活動は小さい活動なんですけれど、それが1つ1つ積み重なってどうなっていったんですか?
■ 自分たちができることから始める
岡林:そのほかにもいろいろあるんですね。たとえば病院が本当に汚かったんですよ。ですので、ごみ箱を置くようにしたとか、あるいは毎日掃除をするようにしたとか。そういった活動もあったりですとか。
あと、さっき言ったように、病院に行ったときに、誰に話しかけていいかわからないというのと一緒で、まずどこへ行ったらいいのかわからないということもあるんですね。ですので、まず受付を作るですとか、そういった活動もしました。
ヨーコ:なるほど、そういうのを1つ1つ、岡林さんが指示するのではなくて、どういった形でラオスの医療スタッフの方たちは考えていくようになるのですか?
岡林:基本的には、ラオスの人たちが考えて、自分たちでできる活動をということでやってきているんですけれど、もちろん一人だけからのアイデアですべてできるわけではないので、いろんな病院の人たちを集めて一緒に話し合ってもらったんですよね。
ヨーコ:いろんな病院の人たちを一堂に集めて、じゃあどうしたらいいかみんなで話し合いましょうと。
岡林:そうすると、「自分たちの病院ではこういうふうにやろうと思う」「それいいね、うちの病院でもできるね」ということでいろいろなアイデアを持ち寄って、同じような状況の病院が多いですから、いろいろな病院でまたやったりというようなことをしていましたね。
ヨーコ:そういうワークショップのような活動を受けた医療スタッフの方たちから、どんな感想をいただいたりします?
岡林:医療スタッフの方たちから言われるのは、「すごく自分の病院が働きやすくなった」と言ってましたね。
ヨーコ:そうすると、誰もいないということはなくなりますよね。
岡林:そうですね。もう時間が決まっているので、いつ働けばいいのか、あるいは、次、自分がいつ病院に泊まらなくてはいけないのかというのがわかるからよくなった。あるいは「本当、病院自体がきれいになって、すごく病院に行っても気持ちいい」と医療スタッフ自身も言っていますよね。
ヨーコ:では、病院に来る人からはいかがでしたか?
岡林:そうですね、アンケートをやっているんですけれども、多くの人は「病院がきれいになった」と思ってくれたようですね。そのほかにも、「最初にどこに行ったらいいのかとか、誰に話しかけたらいいのかということで迷うことがなくなった」ですとか、あるいは「病院に来て言葉がわからなくて困るということが少なくなった」、そういったことがアンケートのなかにありました。
ヨーコ:なんかすべてが笑顔な感じに改善されていますね。
■ 患者さんに来てもらうためにどうしたらいいのか
ヨーコ:この活動って、何年ぐらいで根付いてきたりとかしたんですか?
岡林:最初は大変でした。本当にやっぱり、病院をよくする、サービスをよくする、患者さんが来ないのは自分たちの技術がないからだと言い張るんですよ。
ヨーコ:なるほど。とにかく岡林さん、技術を教えてくれ、と。
岡林:そうですね。技術を教えてくれということもそうですし、やはり何か器械を買ってくれだとか、病院を建て直してくれだとか、そんなことばかり言われましたね。
ヨーコ:それをどういうふうにがんばって、そのおもてなしというのでしょうか、サービスをよくするというところに持っていったのでしょうか?
岡林:これ本当に根気ですよね。せっかくそういう器械を入れても患者さんが来なかったらどうしようもないでしょう、ということを話し合って、本当に来てもらうためにはどうしたらいいの? ということをもう繰り返し繰り返し話してきましたね。
ヨーコ:なるほど、だからさっきみたいにラオス語がすごく得意になったんですね。
岡林:そうですね、ラオス語も大切ですよね。そうすると、すごくラオスの人たちがぽろっと言う本音がわかるんで。
ヨーコ:だからすごくなじんだんじゃないかなと。
岡林:そうですね、だんだん思考回路もラオス人ぽくなってくるんですよね。
■ 「行きたくなる病院」ができた!
ヨーコ:なるほど、長い地道な活動がこういうふうにつながっていくんですね。何か、一番うれしかった変化とか、自分がやってこんなに楽しかったとか、こんなに素晴らしいことが起こったとかみたいな、印象に残った変化はありますか?
岡林:病院をよくする活動に関しては、自主性に任せて自分たちがアイデアを出して、こんなことをやりますという活動だったんですけど、病院に行くと、「今度こんなことやり始めたから見てくれ」と紹介してくれたりですとか、「今度、これだけだと患者さんにとってわかりにくかったから、こういうようなポスターを作ったからこれを見ていってくれ」だとか、といったことをラオスのほうから言ってきてくれるようになったんですよね。
ヨーコ:自分で工夫してどんどん改善していく、どんどんよくしていくという心が根付いていく、それが行きたくなる病院ということですね。
岡林:そうですね。
ヨーコ:ねえ、マスター、お金を渡すっていうだけじゃない活動ってのはけっこうたくさんあるんですね。
マスター:そうね。お金とか物をあげちゃうというのは、援助としては、言い方が変ですが、簡単。
ヨーコ:1つの手段ではあるけれども。
マスター:ただ、そうじゃなくて地道に、たとえば今あるもので、それでみんなで考えて、みんなで何ができるんだろうかと、その活動そのものを自分たちでやってみるなかで成功する、小さな成功体験、それが自分たちの自信になってきて、じゃあまた自分たちで新しいアイデアを考えてくる、というような働きかけというか、そういうことをやってきたんだなと思いますし、それが大事だと思いますけれどもね。
ヨーコ:グローバルヘルス・カフェはホームページもあります。ぜひチェックしてくださいね。
今回は「行きたくなる病院をつくる」をテーマに、国立国際医療研究センターの岡林広哲さんからお話をお聴きしました。
それでは、またお会いしましょう。