「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.727~私の好きな曲その3~】
ぼく自身が心に残っている素敵なジャズナンバーを、勝手気ままに紹介しようと言うこの企画も今回で3回目。さて何を...と考えていた処、机の上にあった1枚のアルバムに目がいった。そうかこの中の名曲を...と言うことで、取り上げる曲は直ぐに決まった。
そのアルバムとは、物故した名ベーシストのチャーリー・ヘイデンと現代を代表するギタリストのパット・メセニーのデュオによる、屈指の名盤の一つ『ミズーリの空高く(原題『ビヨンド・ザ・ミズーリ・スカイ』)。そしてその1曲は、ヘイデンのペンになる言わずもがなの銘曲「ファースト・ソング」。アルバムは確かジャズ専門誌でこの年(98年)のベスト作にほぼ全員一致で選出されたもので、当然ぼくも1位に推した。
ヘイデンとメセニー、この現代のジャズシーンを代表する2大巨匠の共演、これだけでもう言うこと無しなのだが、それに加えここで取り上げられている曲の素晴らしさ...。エンニオ・モリコーネの「ニュー・シネマ・パラダイス」、ヘンリー・マンシーニの「トゥ・フォー・ザ・ロード」と言った2つの珠玉の映画主題曲、それにメセニーのオリジナル「ティアーズ・オブ・レイン」と「メッセージ・トゥ・ア・フレンド」の2曲、どれも極めつけの銘品揃いだが、それ以上に名作曲家でもあるヘイデンの4つのオリジナルが圧巻でどれも心打つものばかり。中でも「ファースト・ソング」ともう1曲「スパニッシュ・ラブ・ソング」。この甲乙つけがたい真の銘品のどちらを...と迷ってしまうのだが、センチメントとノスタルジーの極致とも言えそうな「ファースト・ソング」を選ぶことにした。
ところでこのアルバムは「アメリカーナ」とも呼ばれる、最近注目のジャズの新潮流の原点となるアルバムとしても大きな価値がある。アメリカ―ナとは文字通りアメリカ人の...(音楽=ジャズ)と言う意味合いで、このアメリカ人とはホワイト・アメリカン(白人)のこと。ジャズを作り上げたアフリカン・アメリカン(黒人)のブルースなどに対抗し、白人音楽の原点とも言えるカントリーやブルーグラスを基軸にしたジャズ~いかにも白人的な匂いの濃いジャズを指すのだが、最近このアメリカーナ...関連のミュージシャン、特にメセニーを筆頭にビル・フリゼルやジュリアン・ラージなど俊才ギタリストに増えている感も強い。ヘイデンもメセニーもアメリカの中・西部の出身で、大平原の中で生まれ育った。それだけにミズーリ―というこの地域の代表格をタイトルにしたこのアルバムには、その中止部地域の壮大さと郷愁、哀愁などが混じり合った、正にアメリカ―ナに相応しい独特の情感が現出される。そしてその極め詰めの1曲が、この「ファースト・ソング」と言う訳なのである。
最近こそあまりやらなくなったが、頻繁にレコード屋巡りをしていた頃は、ジャズの棚の中でアルバム探しをして、この「ファースト・ソング」が収録されているアルバムを見付けると、直買いに決めたものだった。それだけに今手許に6枚ほどこの曲を入れたアルバムがあるが、どれも内容はオリジナルのヘイデン&メセニーの足元にも及ばない。しかしこの曲さえ聞ければ、その他がどんなつまらない演奏でも満足してしまうから不思議なものである。「ファースト・ソング」究極の銘曲として皆様にも是非お勧めしたい。
【今週の番組ゲスト:アルテスパブリッシング代表の
M1「My Favorite Things / John Coltrane」
M2「Wonderful Days / 高免信喜」
M3「ラッパと娘 / 笠置シズ子」
M4「Take Five / Phillip Strange &Larry Marshall」