「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中(再放送は毎週金曜日 18:30~19:00 ※特別番組放送により休止の場合あり)。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.679~ECMの真実】
ジャズという音楽は皆様良くご存じの通り、アメリカの地で生まれたもの、そしてそこで生まれ育ったアフリカン・アメリカン達(黒人)の歴史をダイレクトに映した20世紀を代表する音楽でもある。ジャズはまた、現代のポップミュージックのほぼ全てがここから派生した...とも云える程の影響力を持つものでもある。それはアメリカに留まらず、欧州そして日本、中南米等々、世界中に拡がっていき、その土地々で独特なジャズを生み出して来た。
そうしたジャズの一つの拠点、欧州を代表するジャズレーベルと言えば、ドイツ人のマンフレート・アイヒャ―が創設したECMと言うことになる。1969年にミュンヘンで産声を上げたこのレーベルは、今や世界中を席巻している音楽レーベルで、ジャズのみならずクラシック、コンテンポラリー・ミュージック、ワールド・ミュージックなど、広範囲な音楽ジャンルを扱い、独自のポリシーを有したレーベルとして、多くのジャズ&音楽ファンの信頼を勝ち得ている。この独特な味わいを持つレーベルを日本に初めて紹介したのが今は無きトリオレコードの洋楽部長だった啓友にして先輩の稲岡邦爾氏。氏はぼくも関わっている日本で最も権威あるジャズブログ「ジャズ-トウキョウ」の主催者にして、フリーのジャズプロデューサーでもある。レーベル創設者のアイヒャーも、ジャズ大国である日本でのECM紹介に、大いに貢献した氏を大変に高く評価、「ケニー(稲岡氏の愛称)がいたからこそこのレーベルはここまで...」とも語っているほどである。
この稲岡氏とぼくとの付き合いはもう数十年、結構短気な人だけに付き合いも仲々に難しいのだが、なんと言っても早稲田大軽音楽サークル(クラブは違うが)関連の先輩。一昨年は共に日本ジャズ音楽協会の会長賞を受賞、受賞パーティーも共催した仲でもある。そんな彼はECMに関する著作もこれまで数冊あり、その一つが河出書房新社から出された「ECMの真実」。ECMを知るバイブル本の一つともされるこの名著も既に長い間廃版。そこで彼はこの改訂版をこのほどカンパニー社から出した。これは前作をほぼ全面的に書き換えたと言う...意欲作でもある。その出版記念会を兼ねて、4月のある週末に神楽坂にある由緒ある赤城神社(宮司がジャズ好きとのこと)のホールで、シンポジウムが2日間に渡って行われた。このイベント初日にはあの音楽評論家のピーター・バラカンも登場、ぼくは所用で行けなかったのだが、なんと初日が100人超、2日目も70名と言う、この手の小難しいイベントにしては、超の付く動員数で稲岡大兄も大満足。早速喜びの報告が入って来た。
それにしても流石ECMの底力。昨年には音楽誌「ステレオ」がECMサウンドの魅力と言う特集号を出したが、この号も音楽誌としては珍しく完売したとも聞く。ECMの魅力はその音楽力の高さと共に、そのサウンドの素晴らしさもあり、オーディオファンもこのレーベルを愛している人が多い。稲岡氏は自身が主催するジャズ・トウキョウの創刊300号記念に「私のECM」と言う特集を組み、ジャズミュージシャンやシンガー、音楽ライター、プロデューサーなど100名超の関係者から、「私のECMの1枚」と言うアンケートを募集、世界にも珍しいアルバムカタログとなったが、まさにこの特集号はこのレーベルベスト作品の素晴らしい集大成カタログでもある。
この特集号にぼくは愛着の1枚として、ピアニストのポール・ブレイのソロアルバム『オープン・トゥ・ラブ』を挙げておいた。これはぼくがジャズライターの端くれとして、あるジャズ雑誌に初めてライナーを書いたデビュー原稿で、今でもその素晴らしい音楽内容と共に、自身の拙い原稿も恥ずかしくも懐かしいもの。ある意味ぼくの想い出多い記念碑作品でもあるのです。ECMと稲岡邦爾氏、これからもずっと付き合っていきたい、素晴らしいレーベル&友人です。
【今週の番組ゲスト:ギタリストの廣木光一さん コントラバス奏者の飯田雅春さん】
「Mais Azul Que Blue/空と海とBlue」より
M1「CeuE Terra / 空と大地」
M2「Ciclo/ シクロ(二丁目の春)」
M3「MaisAzul Que Blue / 空と海とBlue(ロウニンアジの孤独)」
M4「Herradura/ エラドゥーラ」
M5「Antes Da Despedida/ 別れの前に(Love Will Out)」