「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中(再放送は毎週金曜日 18:30~19:00 ※特別番組放送により休止の場合あり)。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.686~内外ボーカルの秀作】
数週間前のこのコラムで、トム・ウエイツの出演した映画「ワン・フロム・ザ・ハート」について書いたが、そのコラムの最後に彼とかつて同棲していた女傑リッキー・リー・ジョーンズが、最近スタンダードソングを歌ったアルバムを出し、今はそのアルバムがジャズ関連でぼくが最も聴きたいものだ...と記したところ、幸運なことに関係者がそのアルバムを送ってくれた。『ピーシズ・オブ・トレジャー』。JAZZのメインシティーNYのスタジオで、ロブ・マウンジー(p)やラッセル・マローン(g)などといった有名ジャズマンを従えて「ジャスト・イン・タイム」や「ヒア・ズ・ザット・レイニー・デイ」などのスタンダードナンバーを10曲歌ったこのアルバム。期待通りいや期待以上の歌唱で、このJAZZ唄者の凄さを痛感させられる。お馴染みの小粋で小洒落たハリウッド&ブロードウエイ小唄の数々が、そうした粋さとは全く違った様相、即ち哀切にして重厚、シンプルにしてスリリングでもある姿で立ち現れてくる。凡百のジャズシンガーでは決して表せない凄みのある世界がここにはある。
プロデュースは彼女のデビュー作を担当した伝説の男、ラス・タイトルマン。彼女の良さを知り尽くしたこの伝説のプロデューサーは「このアルバムで聞こえてくるのは、今が満開のリッキーの芸術性だ。ここには今までなかった響きと温かみがある。年齢を重ねた彼女の姿が大好きだ...」と語っているが、まさに歌う巫女というか曲に憑依したその歌唱の素晴らしさは表現しがたいものすらあり、最後のナンバーでは感極まってすすり泣いている様な歌声まで収録されている。人によって好き嫌いはあるだろうが、文句なしのお勧めのアルバムです。
そしてこの彼女に対抗しうる日本人ジャズシンガーと言えば、ただ一人しか思いつかない。大野えりである。彼女が天才にして鬼才のピアニスト、板橋文夫と組んだ最新アルバム。これは板橋のナンバー2曲だけを吹き込んだミニアルバムだが、今秘かな注目を集めておりこれはと思ってすぐに手に入れた。「グッド・バイ」と「渡良瀬」。いずれも板橋の代表曲だがえりの表現力も際立っており、日本のジャズボーカルの水準をはるかに凌駕したところに、この作品はある。その凄さはまた番組でも明らかに出来ると思うし、彼女も番組出演を楽しみにしていると聞く。彼女の仕事の関係で日本を代表するJAZZ巫女の出演は、この秋以降になりそうだが今から久しぶりの出演だけに愉しみでいっぱいだ。彼女が番組に来てくれたのはもう10数年も前のこと。余りアルバムを出さなかったこともあって声を掛けづらかったのだが、いつもは4曲紹介しているこの番組でも2曲だけで勝負してもらおうとも思う。それだけ価値のある2曲なのだから...。
【今週の番組ゲスト:ジャズピアニストのRINAさん】
2ndアルバム『Transparent Blue』から