「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週木曜22:30~23:00(本放送)と金曜18:30~19:00(再放送)で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.647~鈴木清順~】
カンヌと並んで世界的な映画祭として知られるベネチア映画祭。今年も女性監督の活躍などで話題を呼んでいたが、その中で目を引いたのが復元映画賞。これは文字通り大映画作家達の往年の名作を、デジタル技術などで復元し改めてその魅力を見直そうと言うもの。これまでは欧米の映画作家たちの作品に賞が与えられていたが、今回は鈴木清順監督の「殺しの烙印」が受賞したのだと言う。快挙・快挙!。
日活映画の終末期を飾るこのアクションハードボイルド傑作が、こんな形で再度スポットを浴びるとは...。その上この復元賞では初めての欧米以外の受賞とあってその意義は相当なもの。現在の日活映画スタッフのデジタル復元技術の高さも、この受賞には大きく貢献しているだろうが、やはり作品自体の素晴らしさが最大のポイントだったのは言うまでも無い。
鈴木清順(2017年没)、日本の映画史を飾る異端の天才監督だが、若い人達の中でその名前を知るのはよっぽどの映画好きか映画を志す人達ぐらいなものだろう。昔映画が娯楽の中心だった時代は、東宝、大映、東映などと言った大手5社がそれぞれ2本立ての映画上映で競っていたものだった。清順監督もその中で日活映画のプログラミング・フィルム・メイカーの一員として、数多くのフィルムを作っていたが、そうした紋切り型映画の中にいつも彼独特の表現を差し込み、上層部からは分からない表現をする要注意人物として、常に目を付けられていたと聞く。
そんな彼の独特な表現に当時の映画青年達~ぼくもその端っこに位置していたのだが、は惹かれ鈴木清順映画は若いファンから熱烈な支持を集める。そこで日活も彼の才能を認めざるを得なくなり、「殺しの烙印」を含め「東京流れ者」などの独特な作品群が登場する。そしてその最高傑作が戦前の暗い時代を痛快に生き抜いた青年を描く、高橋英樹主演の「けんかえれじい」。モノクロの画面が実に印象深く想っている人と歩く、夜の桜並木シーンの過剰なまでのロマンチシズム。今でもこのシーンを超える画像は無いとも言える、言葉に表せない程の素晴らしさだった。
その清順監督とぼくは一度だけ一緒に仕事をやらせてもらった。「夢二」「チゴイネルワイゼン」と言う大正3部作で大監督の仲間入りした彼だが、その作品を撮り終えた彼をメインに据えた3時間弱の大作ラジオドキュメントで、監督のインタビューや実際の現場風景、かつての作品の音などを差し込み、立体的のその全体像に迫ろうと言うもの。この番組はぼくのラジオの師匠とも言える、テレコムの河内氏が当時ジャズなどを使い、監督作品の音楽&音響責任者的役割を果たしており、彼に全面的な協力を頼み作ったもので、今でも中々に意欲的な作品だったと思う。清順監督は日活との裁判沙汰などがあった人とは思えない程、恬淡とした好好爺と言った感じで、インタビューもスムーズだったし、かつての音源使用に関しても日活もよく協力してくれたと思う。
賞を取った肝心の「殺しの烙印」は、錠さん(宍戸錠)演じる白米が何より好物の殺し屋を描いた、笑いありのアクション巨編だが、この面白さ・豪快さにベネチア映画祭の審査員達が共感してくれたことは全く嬉しいことで、邦画のエポックの一つと言える快挙だと思う。作品は今もレンタルヴィデオで簡単に見ることが出来る筈。鈴木清順という監督の、偉才・異才振りに、この賞獲得を契機に是非触れて欲しいものである。
【今週の番組ゲスト:クラリネット奏者の 花岡詠二さん】
M1「Rachel's Dream」『EIJI HANAOKA PLAYS BENNY GOODMAN ~レイチェルズ・ドリーム~ 』より
M2「Song of the Seashore 浜辺の歌」『The International All Star Cats Join In』より
M3 「Swanee River (Old Folks at Home) スワニーリヴァー 故郷の人々」『The International All Star Cats Join In』より
M4「You Are My Melody」『Tribute to Buddy DeFranco ~ Play George Gershuwin ~』より