「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中(再放送は毎週金曜日 18:30~19:00 ※特別番組放送により休止の場合あり)。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.694~ボブ・ディランのソング】
現代最高のシンガー(&ソングライター)とも言われ、2016年には歌手として初めてノーベル賞の文学賞を獲得と言った、数々の栄光に包まれた存在のボブ・ディラン。日本でも彼の信奉者は数多く、局にも何人かファンがいる。その一人であるもう局をリタイアしたT君は、学生時代バンド(ブルー・グラス)をやっていた関係で「ライク・ア・ローリング・ストーン」等のナンバーも良く取り上げていたのだが、局に入って確か「ディラン・タイム」と言った彼の名前を冠した30分のディラン番組を作り、鈴木カツ氏など有名なディラン研究家などもゲストに呼び、ファンの間ではかなり人気の音楽番組だった。
ぼく自身は学生の頃からジャズ一筋...と言うことで、ディランの音楽などは上記の「ライク・ア・ローリング・ストーン」や「風に吹かれて」など、ごく一般的な名曲ぐらいしか知らない、ある意味門外漢だが、そのディランが今回、自伝以来18年振り、ノーベル文学賞後では初めてという話題の著作本を出したと聞いた。それも様々なソング(歌)について触れた音楽本で、なんとあのお堅い岩波書店から出される...と言う。となればこれは是非にも...と言うことで一読してみた。
と言うことでまあ今回は、先日の「緑陰読書パートⅡ」と言った感じです。さてそのボブ・ディランの新作本のタイトルは、「ソングの哲学~ザ・フィロソフィー・オブ・モダン・ソングス」と言うもの。アメリカンソングの父~スティーブン・フォスターからエルビス・プレスリー、エルビス・コステロ、そしてサンタナなど、多種多様なナンバー=66曲を取り上げ、ディランなりの解釈で曲の肝を聞き取る...と言った趣向の音楽本。だが写真や図版なども入れ込み結構愉しく読み通すことが出来る。60数曲のうちやはり多いのは、彼の音楽に直接的関わるブルー・グラスやカントリーと言ったアメリカ白人音楽、そしてその対極の黒人音楽=ソウルミュージックにプレスリーなどのロカビリーソング等々。ただフランク・シナトラやペリー・コモ、ローズマリー・クルーニー等と言ったジャズ系のポップシンガーの十八番も取り上げており、決して偏った選曲や歌手選考では無く、細かい目配りも良く効いたもの。ただ面白いのはロックの2大巨頭とも言える、ビートルズとローリング・ストーンズと言った、イギリスバンドの曲が一つも取り上げられていないこと。ビートルズの方はディランの好みに合わないのはなんとなく分かるのだが、ストーンズの方は上記の「ライク・ア・ローリング...」でも共通しており、相通じる所も多々あると思うのだが、そこら辺がこのソングブックのなんとも興味深い所でもある。
嬉しいのはジャズ関連だと、ソウルジャズボーカルの神髄~ニーナ・シモン、そしてカントリージャズの大家~モーズ・アリソンの2人が取り挙げられていることで、曲はシモンの方が「悲しき願い」、アリソンは「みんな慈悲を叫び求める」。特にモーズ・アリソンについてはディラン自身もシンパシーを感じる所があり、彼についての記述は愛情溢れたものになっている。もう一つ興味深いのは、ボビー・ダーリンの存在。イタリア系移民で一時人気のあった若手の人気シンガーだが、同じイタリア系のシナトラやディーン・マーティンなど、後世に名を残す大物には成れなかった。だがディラン自身はかなり彼のことが気に入っている様子で、「マック・ザ・ナイフ」と「ビヨンド・ザ・シー」の2曲も、そのヒット曲を取り上げているのである。(他にはプレスリーだけ)自身の母親を姉として長い間信じて育った...等と言う複雑な環境下にあり、サンドラ・ディーと言う可愛い人気女優と結婚しながらもお決まりの破滅あげくに若死に...と言った、今一つ恵まれなかったボビー・ダーリンと言った歌い手の存在に、何か深いシンパシーを感じ取っているかの様な記述、「そのソング(=歌)の希望の無さはまさに彼の人生そのもの...」と記されるダーリンのソング人生。60数人の歌い手達の中でも、最も鮮やかにその存在感が浮き上がる辺りも大変に興味深い。いずれにせよ皆様も是非一度この音楽本~ソング集を手に取られてみては...。
【今週の番組ゲスト:サックスプレイヤーの鈴木央紹(ひさつぐ)さん】
5作目のリーダー作 Stars & Smiles, Vol.1 (Players)から
M1「So Many Stars 」
M2「Little Willie Leaps」
M3「So In Love」(『Live from Yokohama』より)
M4「Dreamsville」